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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2405号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 株式会社杉浦商店

右代表者代表取締役 杉浦英一郎

右訴訟代理人弁護士 荒井秀夫

被控訴人(附帯控訴人) 大橋光雄

右訴訟代理人弁護士 森達

長谷川俊明

被控訴人(附帯控訴人)補助参加人 吉田藤一郎

主文

控訴人の控訴に基づき原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、その営業時間内の何時にても、控訴人の株主名簿(被控訴人に関する部分を除く。)を閲覧又は謄写させよ。

被控訴人の控訴人に対するその余の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

控訴につき訴訟費用は、第一、二審を通じて控訴人に生じた費用の五分の四を被控訴人の負担とし、その余を各自の負担とし、附帯控訴につき控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

事実

控訴につき、控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴につき、附帯控訴代理人は、「原判決中附帯控訴人敗訴の部分を取り消す。附帯被控訴人は附帯控訴人に対し、その営業時間内の何時にても、(一)附帯被控訴人の昭和二九年から昭和五二年までの各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、準備金及び利益又は利息の配当に関する議案並びにその附属明細書を閲覧させ、又はその謄本を交付せよ。(二)附帯被控訴人の株主名簿を閲覧又は謄写させよ。附帯被控訴人は附帯控訴人に対し金五〇万円及びこれに対する昭和五〇年一二月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯被控訴代理人は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、《証拠関係省略》ほか、原判決の事実摘示(《訂正・削除関係省略》)と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する請求は、控訴人の営業時間内の何時にても控訴人の株主名簿(被控訴人に関する部分を除く。)を被控訴人に閲覧又は謄写させるべきことを求める限度で理由があるから、これを正当として認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これを失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決の理由説示(原判決二〇枚目裏一一行目から二九枚目表一一行目まで。ただし、二一枚目表七行目「前記第」から八行目までを「当事者間に争いがない。」と、二二枚目表二行目「同被告ら」を「英一郎」と改め、裏二行目「原告が」の前に「控訴人が原審の第一〇回口頭弁論期日に控訴人の株主名簿のうち被控訴人に関する記載部分を乙第五六号証として提出し、被控訴人がその成立を認めたことは、記録によって明らかであり、」を加え、四行目「く、当該部分については、原告はその請求の目的を達」を「いから、当該部分については、控訴人は、被控訴人の閲覧又は謄写請求に対して既にその義務を履行」と、一一行目「前記第一、一のとおりである。」を「当事者間に争いがない。」と、二四枚目裏二行目「同孔清に」から三行目「過失があった」までを「同孔清の前記三1の行為が違法である」と、二六枚目表一行目「らかであり、」を「らかである。」と改め、「したがって、」から三行目までを削除し、二九枚目表八行目「同孔清の」から一〇行目「ことはできず、」までを「同孔清が、本件株式帰属訴訟の敗訴判決が確定するまでの間被控訴人の株主たる資格を争い、被控訴人を株主として遇しなかったことをもって、これを違法と評価することはできず、」と改める。)と同一であるから、これを引用する。

本件計算書類等の閲覧又は謄本交付請求について

本件計算書類等のうち、昭和二九年度から昭和三九年度までのものについては、控訴人においてこれを作成しなかったと主張するところ、これが作成され、かつ、現存することを認めるに足りる証拠はない。商法二八二条二項に基づき株主が同法二八一条一項所定の書類の閲覧等を請求しうるのは、当該書類が作成されて現存する場合に限られるのであるから、未だその書類が作成されていないときは、作成懈怠について取締役等の責任が別途追及されることがあるのは格別、当該書類の閲覧又は謄抄本の交付を請求するに由ないものというべきである。

本件計算書類等のうち昭和四〇年度から昭和五二年度までのものについては、これに該当するものとして、原審及び当審口頭弁論期日に控訴人が乙号証として別表記載の書類等を提出するにあたって、その原本を法廷にて顕出し、かつ、その写しを被控訴人に交付したことが原審記録及び当審の審理経過に徴し明らかであり、《証拠省略》によると、別表記載の書類等はいずれも本件計算書類等のうち昭和四〇年度から昭和五二年度までのものに該当することが認められるところ、書証の写しは、提出者において原本を正写した旨認証したものであって、実質において謄抄本と異なるところがないとみるべきであるから、控訴人は、右書証提出における原本の呈示及びその写しの交付により、昭和四〇年度から昭和五二年度までの本件計算書類等については、被控訴人による閲覧又は謄本交付の請求に対してその義務の履行を終えたものというべきである。

被控訴人の本件計算書類等の閲覧又は謄本交付請求は、いずれも理由がない。

以上のとおりであるから、被控訴人の請求のうち、控訴人の株主名簿(被控訴人に関する部分を除く。)の閲覧又は謄写を求める部分を認容し、その余の部分を棄却すべきである。

よって、本件控訴は右の限度で理由があるから、原判決を変更し、附帯控訴は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川幹郎 裁判官 髙橋欣一 菅英昇)

〈以下省略〉

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